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【航空産業のヒューマンエラーについて考える(2)】

●それでは、航空産業がこうした「成熟期」から「衰退期」への転換期にあるのだとすれば、致命的な大失敗を防ぐためにどのような対策を講じればいいのでしょうか。
 
○畑村氏は、技術(産業)の社会的重要度は「成熟期」の手前でピークを迎えるため、経営者はそのターニングポイントをしっかり見極めて適切に対処することが必要だ、と指摘しています。

 つまり、今後は航空産業もこれまでのような右肩上がりの成長は期待できないので、社会から最も期待されている「安全」を担保しながら、徐々にスリム化を図らなければならない、ということではないでしょうか。
 とすると、限られた人材や資金をどの分野に集中させるか考えた場合、キーワードは「サービスの向上」ではなくて「安全の担保」であることが見えてきます。

 したがって、私たちも一つ一つのミスを表面的に批判するマスコミ報道に踊らされることなく、航空産業が「安全分野」に人材と資金を集中しようとしているか、チェックすることが必要ではないでしょうか。

○話を先日の逆噴射装置トラブルに戻すと、今回のトラブルは機体の塗装作業を委託された子会社の整備士と、飛行前に機体を確認したJALの整備士との間で起きた「ヒューマンエラー」といえますが、畑村氏によると、こうした「ヒューマンエラー」は細分化された組織の中で発生するのだそうです。

 つまり、細分化された組織では各々が自分の担当の仕事のことしか考えず、それが全体の中でどういう意味を持つのかを考えなくなるというのです。
 さらに、各部署は決められた範囲内の仕事だけを全うしようとしてお互いの接点が無くなり、その接点が徐々に広がって「隙間」を生み出し、この「隙間」は誰も手出しをしないから連携が寸断されて失敗が発生するのだとか。

 今回のトラブルも、まさに双方の整備士の「隙間」で発生した「ヒューマンエラー」であり、畑村氏は、こうした「ヒューマンエラー」は「隙間」を埋める努力さえしていれば防ぐことができるため、「まさか」ではなくて「当然」の結果なのだと指摘しています。

○では、こうした「ヒューマンエラー」を防ぐためには、具体的にどのような対策を講じればいいのでしょうか。これについて畑村氏は、具体例としてトヨタの「チーフエンジニア」制度を紹介しています。

 つまり、細分化された組織では各々が自分の担当の仕事のことしか考えないため、仕事の全体を見渡してチェックする人材が必要になるわけですが、それを任せるのが「チーフエンジニア」というわけです。
 ただし、この「チーフエンジニア」は一つのシステムをゼロから立ち上げた経験だけでなく、失敗情報も含めたくさんの知恵を持ち、全ての仕組みを知っている人材でなければならない、とも指摘しています。

○その後、ネットで検索して分かったことですが、もともとJALには一つの機体を最後まで責任持って整備する「機付整備士」という制度があったのだそうです。

 これは、520名の犠牲者を出した「123便事故」が起きた1985年に、当時のJALの最高経営会議が機材の安全性を高めることを目的に発足した制度だそうですが、その後はコスト削減や効率の追求のために「機付整備士制度を個人から組織で行う体制に変える」方針に変更し、「機付整備士」制度は2003年に廃止されたそうです。
 この方針変更に伴い機体整備が細分化されたのであれば、現在JALで多発している整備トラブルも、まさに畑村氏が指摘するとおり起きるべくして起きた「当然」の結果と言っても良いのかも知れません。

 にもかかわらず、今回JALが公表した再発防止対策は「整備後にピンを抜いたことを目視確認するよう整備規定を改める」と、マニュアルの改正だけで片づけようとしていますが、これで本当に今回のような「ヒューマンエラー」を防ぐことができるのでしょうか。
 もう一度、多くの犠牲者を出す事故を経験してからでは遅いのですから、「機付整備士」制度を復活させるなど、早急に有効な再発防止対策を講じるべきと思うのですが・・・。

by azarashi_salad | 2005-08-07 13:13 | 私説 <:/p>

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