【航空産業のヒューマンエラーについて考える(1)】

●前回の記事(▼これは危険なトラブルだ)では、JAL機の逆噴射装置トラブルを取り上げました。日本航空の整備ミス続発や羽田空港での管制ミスなど、このところ航空産業のあらゆる現場においてミスやトラブルが後を絶ちませんが、これはなぜでしょうか。

○ベストセラーとなった「失敗学のすすめ」の著者である畑村洋太郎氏(東大名誉教授)の著書「決定版:失敗学の法則」(文春文庫)に、そのヒントが隠されているような気がします。

 畑村氏は、本書の中で「一つの技術、産業の寿命はおよそ30年」と指摘しています。つまり、ある技術(産業)が少しずつ成長する「萌芽期」から多くの優秀な人材と潤沢な資金が投入される「発展期」を経て、さらには多くの経験をもとに利益と効率を追求し始める「成熟期」までの期間は、どの産業分野を見ても約30年だというのです。

 これを航空産業に当てはめると、162名の死者を出した「雫石事故」が起きたのが1971年ですから、これを「萌芽期」とすると30年後は2001年になります。
 この間、航空機のジェット化(大型化)や日本全土を覆う航空レーダー網の整備、さらには一県一空港ともいわれる地方空港ネットワーク網の整備などに多額の人材と資金が投入された「発展期」を経て、各エアラインが利益と効率を追求するために子会社化や持ち株会社化などのリストラ・合理化を進めている現状は、まさに航空産業全体が「成熟期」のピークを越えたと言っても良いのではないでしょうか。

○畑村氏は、この「成熟期」には多くの成功とともに多くの「失敗の種」が発生しているが、これを正しく見極めて的確に対応しなければ致命的な大失敗を引き起こし、ついには「衰退期」へと突入すると警鐘を鳴らしています。

 ちなみに、近年の公共交通分野における事故やトラブルの多発に伴い、マスコミで紹介され有名になった言葉に「ハインリッヒの法則」というものがあります。
 これは、米国のハインリッヒ氏が労働災害の発生確率を分析したもので「1:29:300の法則」とも呼ばれ、「1件の重大災害の裏には、29件のかすり傷程度の軽災害があり、その裏にはケガはないがヒヤっとした300件の体験がある」というもので、近年はビジネスにおける失敗発生率としても活用されています。

 冒頭で紹介した航空産業の現場に表面化するミスやトラブルの多発こそ、まさに畑村氏が指摘する「失敗の種」であり、これを「ハインリッヒの法則」に当てはめると、すでに致命的な大失敗を引き起こす前の「予兆」と言えるのかも知れません。

○では、どうして「成熟期」には多くの「失敗の種」が発生するのでしょうか。これについて畑村氏は、マニュアル化による「技術の低下」と「人材の質の低下」を指摘しています。

 マニュアル化は、一見すると大変効率よく見えるのですが、その反面マニュアルに書かれていること以外は許されない、ということでもあります。
 つまり、マニュアル化により多くの「無駄」(あそび)をそぎ落として簡略化した結果、技術の脈略に融通性がなくなり硬直化してしまう、というデメリットが生じているというのです。

 また、人材に対してもマニュアルに沿った行動のみをとるように教育した結果、マニュアルに書かれた範囲内でしか誰も経験しなくなり、技術に対する真の理解ができない人材ばかりを生み出してしまったと指摘しています。
 そして、こうした人材は予期せぬ事態に的確に対応できないため大失敗を引き起こし、その結果、組織は致命傷を負って「衰退期」へと突入するというのです。

○このブログでも、マニュアル化の弊害として「思考の停止」を問題提起したことがありますが、私たちの身の回りにおいても、「無駄」(あそび)を無くすことばかりにとらわれすぎていないか、何ごともマニュアルを定めるだけで片づけようとしていないか、もう一度点検することが必要ではないでしょうか。

【航空産業のヒューマンエラーについて考える(2)】に続く。
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by azarashi_salad | 2005-08-07 13:13 | 私説 <:/p>

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