▼また企業不祥事を税金で補填するのか

●<年金補償特例法案>未支給分、税で補償 企業着服の場合(8月31日3時5分配信 毎日新聞)
 政府・与党は30日、事業主に厚生年金保険料を着服され、結果的に未納となって給付を受けられずにいる人への給付を可能とする厚生年金補償特例法案の骨格を固めた。社会保険庁が事業主への追徴ができない場合、記録漏れに伴う未支給年金を税金で補てんすることが柱。記録管理面での国のミスを前提に、その補償の意味合いで税を投入する異例の法案となる。対象企業名を公表する規定も盛り込む方向で最終調整しており、9月10日開会する臨時国会に提出する。
 与党は当初、保険料をさかのぼって徴収できる時効期間(2年間)を撤廃し、当該企業や役員から、時効を迎えた保険料でも強制徴収できる特例法案を検討していた。しかし政府内に「違憲の国家権力発動になる」との慎重論が強いことから断念。未納企業には自主的な納付を求めるにとどめ、時効を理由に拒否されたり、すでに消滅するなどして徴収できない場合は、未払い分を税でまかなうことにした。
 税投入の根拠として、「福祉的な見舞金」とすることも検討したが、見舞金名目で未支給分全額を補てんするのは無理と判断。一歩踏み出して、「国が厚生年金に加入させるべき企業や社員を十分把握できていなかった」という、過失の補償的な意味合いで税負担する理論立てとした。
 総務省の「年金記録確認中央第三者委員会」はこれまで43件について、「本人は保険料を納付したのに、企業が国に納めていない」と認定しているが、「現行法での給付は困難」として政府に法整備を求めていた。特例法案は同委員会が「本人納付」を認定した人を支給対象とする。
 現行法でも、過去に厚生年金適用事業所となった企業は保険料を滞納したり、倒産したりしても社員に保険料で年金を給付できる。しかし、厚生年金の適用を免れているのに社員から保険料を徴収したり、保険料を給料から天引きしているのに一部の社員を年金制度に加入させていない場合は「企業と従業員間の民事問題」として、政府は関与してこなかった。

○現在、政府内で検討されている「厚生年金補償特例法案」では、事業主に厚生年金保険料を着服され、結果的に未納となって給付を受けられずにいる人への給付を可能とするため、税金で補てんすることを考えているという。

 その根拠として「国が厚生年金に加入させるべき企業や社員を十分把握できていなかった」との理屈を述べているが、ということは「今後は全ての企業や社員を国がしっかり管理します」と言っているのと同じこと。

 手厚い保護の裏側には、厳格な管理と厳しい罰則がセットでなければならないわけだが、先の参院選を通じて、国民の間でそうした議論が十分尽くされてきただろうか。

 もちろん、被害にあった方々に罪がないことは十分理解できるが、国が支援することが本当に公平公正な施策なのか、私としてはどうにも違和感が払拭できない。

○その理由として、一つには私企業の年金着服という特定の犯罪に限って、国が被害者を救済することが本当に公平な政策になっているか、という疑問がある。

 記事によると、政府は保険料をさかのぼって徴収できる時効期間(2年間)を撤廃し、当該企業や役員から、時効を迎えた保険料でも強制徴収できる特例法案を検討していたがそれを断念したとあるが、私は、もともと着服自体が犯罪行為なのだから、税金で負担するのではなくて当該企業や着服した本人から徴収するのが筋だと思う。

 百歩譲って、すでに加害者である企業が無くなっている場合のみ国が保障するという仕組みであったとしても、加害者に弁済能力がない犯罪被害者は他にも沢山いるわけで、今回のケースに限ってのみ国が保障するのは、いささか公平さに欠けはしないだろうか。

○二つには、誰にでも職業選択の自由があり、簡単に年金を着服できるような仕組みになっていたり、組織として支払いを拒否するような悪質な企業に勤めたのも、そうでない真っ当な企業に勤めたのも、あくまで「本人の選択の結果」であるということ。

 もちろん、社会保障制度や厚生施設がしっかりしている企業は学生たちから人気があり、だからこそ、彼らは少しでも条件がよい企業を求めて就職活動に精を出したり、学生時代から勉学に勤しむなど努力しているわけだ。

 そうした努力が、結果的に本人が勤める企業の差となって表れてくるわけだから、今回のケースについても「本人の努力不足が結果的に年金にまで影響してしまった」という見方もできなくはない。

 さらに言えば、一時的に目先のお金を得たいがために「不健全な企業」と承知の上で勤める者もいるかもしれないが、そうした者に対しても税金で補填される可能性があるわけで、リスクとリターンの関係からいっても不公平ではないだろうか。

○三つ目は、国の社会保障制度全体から見て不公平ではないかという疑問。

 今回の公的支援を、国による社会保障の一つとして見ることもできなくはないが、その場合は、他の社会保障とのバランスに配慮する必要があると思う。

 例えば、今回の法案が成立すると、本人の蓄えや親の遺産などがあって全く生活に困窮していなくても、企業が着服した部分については国により補填されるが、一方、他の犯罪被害などで現に生活に困窮している方々に対しては、生活保護以外に何ら支援はない。

 その生活保護行政においては、国の厳しい財政事情を反映してか、受給申請自体を渋る自治体が相次ぐなど社会問題化しており、そう考えると今回の救済措置は、社会保障制度全体の体系から見ても、一部の対象者にのみ手厚い保障とはいえないか。

○このように、ちょっと考えただけでもいくつもの疑問が思い浮かぶわけだが、ここまで書いてきてどうにも「既視感」があると思ったら、今回の公的支援は以前にエントリーした「耐震偽装被害者に対する公的援助」と同じ構図ということに気がついた。

●【耐震偽造問題に対する公的資金投入について考える】
 政府は公的資金(税金)を投入して「住民の引っ越しやマンション解体、撤去、建て替えなどの費用を国と地方で一定程度を補助し、住民の負担を減らす」つもりのようだ。
 もちろん、被害にあった住民の方々には何の罪もないことは重々承知しているのだが、本当に税金で支援することが正しい方策なのか、どうにも違和感が払拭できない。

○この問題の時も、いまと同じような議論をしたことを思い出したが、この問題に対して、当時の舛添議員(現厚生労働大臣)がどのような発言をしていたのか探してみたら、以下のブログ記事が見つかった。

●舛添要一の永田町奮戦ルポ 3点セット以外に重要な問題多い [2006年01月30日(月)]
 1月30日の『スポーツ報知』に「3点セット以外に重要な問題多い」という舛添要一議員の記事が載っていました。参考に載せます。
 (略)
 耐震偽装に関しては、(略)。阪神大震災でも一切公的援助がなかったのに「なぜ今回だけ」と批判もある。また、時代に逆行するような官主導の検査体制にはすべきではない。

○スポーツ報知の元記事が見つからないため、舛添氏の発言意図が正確には分からないが、この部分を読む限りにおいては「耐震偽装の被害者に公的援助することは問題がある」と主張しているようにも読める。

 もしそうであるなら、今回の政府案に対して、厚生労働大臣としての舛添議員がどのような見解を述べるのか、非常に興味深いところである。

【9/7:追記】
●厚労相「盗っ人は最後の一人まで」…年金着服で徹底調査へ(9月6日21時19分配信 読売新聞)
 舛添厚生労働相は6日、総務省内で増田総務相と会談し、市区町村の職員による年金保険料の着服について、社会保険庁が行う追加調査への協力を要請した。
 追加調査は、すべての市区町村が対象で、<1>処分の有無とその内容<2>告発の状況、告発された場合は起訴したかどうかや裁判の結果、報道状況<3>返済状況<4>公表状況――の4項目。舛添厚労相の要請を受け、総務省も市区町村に協力を求める要請書を出すことになった。
 会談で舛添厚労相は「盗っ人は最後の一人まで草の根かき分けても探し出すという思いでやって頂きたい」と要請。増田総務相は「甘い処分で済ませることが過去にあった。一刻も早く調査する」と応じた。

○舛添大臣の発言「盗っ人は最後の一人まで草の根かき分けても探し出すという思いでやって頂きたい」はそれで結構なのだが、そうであれば、前回の記事に書かれていた「厚生年金補償特例法案」は見直さなければだめだろう。
 与党は当初、保険料をさかのぼって徴収できる時効期間(2年間)を撤廃し、当該企業や役員から、時効を迎えた保険料でも強制徴収できる特例法案を検討していた。しかし政府内に「違憲の国家権力発動になる」との慎重論が強いことから断念。未納企業には自主的な納付を求めるにとどめ、時効を理由に拒否されたり、すでに消滅するなどして徴収できない場合は、未払い分を税でまかなうことにした。

○従業員の厚生年金保険料を着服した事業主や担当者も「盗っ人」なのだから、こちらについても安易に税金で補填なんてことで納めることなく、ぜひとも「最後の一人まで草の根かき分けても探し出すという思いでやって頂きたい」ものである。
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by azarashi_salad | 2007-09-01 10:01 | 政治 | Comments(0) <:/p>

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