▽魔女狩り的な「飲酒運転報道」について思う


●本社記者が酒気帯び運転 甲府 (朝日新聞:2006年09月20日)

 山梨県警甲府署は20日、朝日新聞甲府総局の中川裕史記者(27)を道路交通法違反(酒気帯び運転)の疑いで検挙した、と発表した。現場で交通切符(赤切符)を交付されている。
 調べでは、中川記者は19日午前1時40分ごろ、甲府市内の自宅近くで、酒気帯びの状態で乗用車を運転した疑い。検問中の同署員が停止を求め、呼気検査をしたところ発覚した。社内調査に対し、中川記者は非番だった17日夜から18日午前にかけて、飲食店や自宅などで焼酎やビールを飲んだ、と話している。同署が発表する直前の20日午後になって初めて上司に検挙されたことを報告した。
 中川記者は警察担当として一連の飲酒運転撲滅キャンペーンにも携わり、同県身延町教育長が19日に酒気帯び運転で検挙された記事も書いていた。
 朝日新聞社は20日付で、中川記者を取材現場からはずし、管理本部付とする人事異動を行った。事実関係を確認した上で、速やかに厳正な処分をする。
〈武内健二・東京本社編集局長の話〉 飲酒運転撲滅のキャンペーンに取り組んでいるさなか、本社甲府総局の記者が酒気を帯びて車を運転し、山梨県警甲府署に検挙されました。私たちは紙面を通じて飲酒運転による事故の悲惨さを伝え、運転する人に自覚を促してきました。読者の皆さまの信頼を裏切る行為としか言いようがありません。深くおわびいたします。ただ、飲酒運転をなくすための報道は続けなければなりません。私たち自身をさらに厳しく律し、社会的責務を果たしていきたいと考えています。


○先日のエントリー(△本気で飲酒運転をなくすためには)で、飲酒運転についての各マスコミの社説を紹介したが、飲酒運転撲滅キャンペーンに取り組んでいた現役記者が酒気帯び運転で検挙されるという不祥事があった。
 この不祥事を受けて、朝日新聞はこの記者を懲戒解雇したという。

 マスコミ各社は、福岡で起きた「飲酒ひき逃げ事件」以降の報道で、「不祥事を起こした公務員の処分が甘いのでは」と批判してきた手前、朝日新聞も自らの社員が起こした不祥事に対して厳しい処分をしなければ格好が付かなかったのであろう。
 言い換えれば、この記者は酒気帯び運転したから社内処分規定に従って解雇されたのではなく、朝日新聞のメンツを守るために見せしめ的に解雇されたととも言える。

 もちろん、飲酒運転は許されない行為だから組織として適切な処分は必要と思うが、福岡のような悪質な飲酒ひき逃げ事件のケースと今回のような酒気帯び運転で検挙されたケースなど全てを同一視して懲戒解雇する、それで本当にこの社会は良くなるのだろうか。

○折しも、先日の自民党総裁選で勝利した安部氏は、「一度や二度失敗しても再チャレンジできる社会」をつくり、この日本を「美しい国」にすることを目指しているらしいが、現実はまだまだそうした社会整備は整っておらず、いきなり職を失っても再チャレンジして新たな生活に向けて立ち直ることができるほど簡単な社会ではない。

 まだまだ、そうしたセーフティーネットが整備されていない中、飲酒(または酒気帯び)運転で摘発された全てのサラリーマンを一律懲戒解雇する社会を想像すると、どう考えても「美しい国」とは思えないのである。

 確かに、違法行為を犯したから懲戒解雇というのは分かりやすいし、当事者個人に全ての責任を負わせることができるため、ある意味、組織としては楽な対応とも言えるのだが、その反面「なぜそうした違法行為を起こしたのか」という問題の本質に迫る必要がないため、同じ不祥事・事故・事件が再発する可能性が高い。

 JR西では、ミスや不祥事を起こした社員を「日勤教育」と称して個人ばかりを処分し、問題の本質から目を背けてきたが、その結果起きたのがあの尼崎脱線事故ではなかったか。
 その意味では、見せしめ的に個人を処分するだけでは問題の本当の解決にはならないということを、マスコミ各社も含めて私たちは学んできたのではなかったか。

○悪質な飲酒ひき逃げ事件が後を絶たないのは、前回の記事で紹介した毎日新聞社説が指摘していたが、もともと現状の法体制の不備が問題の本質であり、違反者を見せしめ的に懲戒解雇すれば解決するという問題ではない。

 自治体や企業でも、そうした問題の本質を深く考えることなく安易に違反者の処分強化を検討しているらしいが、マスコミ各社もそろそろ問題の本質をきちんと捉えて、機能していない法体制の不備を改めたり、飲酒運転しなくても済むような交通サービスの充実を図るなど、実効ある再発防止対策を求める世論を構築していくべきではないかと思う。
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by azarashi_salad | 2006-09-24 08:12 | 社会 | Comments(15) <:/p>

Commented by LGP at 2006-09-24 09:33 x
そのとおりですね。 違反者が悪いことは当たり前ですが、社会(交通)のシステムの問題にメスを入れなければならないと思います。

飲酒運転を減らすため、指名ドライバーという考えを広めています。
http://ameblo.jp/designed-driver/
お酒を売る人も、飲む人も、飲まない人も参加できる飲酒運転対策です。
Commented by deliverer at 2006-09-24 10:10 x
飲酒運転危険ですよね~これから飲み会も増えるので、アルコールチェッカーやアルコール分解ドリンクがあるといいですよね!
Commented by うえだ at 2006-09-24 11:51 x
飲酒運転そのものの防止と罰則逃れ、正反対の立場のコメントですね。
Commented by もぎぃ at 2006-09-24 16:29 x
獣をしつけるにはムチを使うでしょう。
もはや人の良心など期待できない、と誰もが気づき始めたんじゃないですか?
大体、これだけ飲酒運転で逮捕が報じられても後を絶たない。
どーせこんな連中、更正なんかするわけありません。
Commented by おいおい at 2006-09-24 17:52 x
こんなエントリ載せる時点で筆者さんにも経験があるってことですよね。
日本社会は飲酒に甘すぎるんです。酒飲んでればなんでも許されるみたいなバカな風習はこの際断ち切っていただきたい。
酒飲んだ警官が拳銃振り回しても「再挑戦」できる世の中がいいんですか?不適格な人間は退場。当然のことです。
Commented by azarashi_salad at 2006-09-24 19:29
♪LGPさんの「指名ドライバー」という発想はうまくいけば普及するかも知れませんね。
delivererさんのサイトで紹介している「罰則逃れツール」には賛同できませんが、車にアルコールチェッカーを搭載して飲酒運転できなくするシステムを開発したり、科学的に短時間で体内のアルコールを分解する薬があれば、飲酒運転そのものが無くなるかも知れません。

違反者に対しては、しつけというか教育が必要だと思うのですが、そのためには管理下におかなければなりません。
法制度の不備を改めずに懲戒解雇しても、教育できていない者を単に野に放つだけで、そうした者を採用した組織として無責任だと思います。
だから、前回のエントリーで飲酒運転即免許失効を主張しているのですが、下の二人には読んでもらえていないようです。
Commented by Bar at 2006-09-24 20:04 x
>日本社会は飲酒に甘すぎるんです

そう。
だからこそ「たまたま捕まった人間に厳罰を処す」んじゃだめだ、ってのがこの文章の趣旨でしょ。日本語は読みましょう。
Commented by Bar at 2006-09-24 20:04 x
誰かをつるし首にしても問題は解決しないのよ。田畑が荒れたら百姓の首をはねるのか。それだけじゃ田畑は荒れたままでしょ?

大学のコンパなどで未成年者があたりまえに飲酒する風習はそのまま放置されているし、会社の飲み会でも「つきあいわるいな」っていう同調圧力が強い。そういう意識を直さなきゃ意味がない。誰かそこを改善しようとしてる? 昨今の風潮で。

さらには、街道筋でコンビニに入れば24時間いつでも手軽に酒が飲めるし。国道からそれた交通量の少ない道路に深夜に行ってごらん。長距離トラックのドライバーが酒飲んで寝てる。彼らはムリな納品時間にあわせて待機してるので、未明にまだアルコールが抜けないうちにハンドル握って走り出す。トラッカーの飲酒運転も一時期叩かれてたけど、けっきょく抜本的な対策はなされないまま終わっちゃったよね。…そういう運輸体制を強要しているのは、実はシビアな流通に依存しているぼくら自身なんだけど。

これでも飲酒運転者を懲戒解雇すれば夢の国ができると?
Commented by うえだ at 2006-09-24 22:15 x
JR西日本と比較するのはちょっと適切じゃないかなと思います。JR西日本の場合は人間のミスを許されない体制が問題になっていたのであり、飲酒運転は社会人としての自覚、資格の問題であると考えます。もちろん周囲の圧力など、自分だけの問題でないという立場もあるでしょうが、それをいれてもやっぱり私は自覚の問題だと思います。
ただその前に教育が必要です。朝日新聞はちょっとした飲酒でも懲戒解雇にすることを周知徹底していただろうかという問題提起な訳ですよね。この点は同意します。そういえば、JR西日本の事故の後、厳し過ぎると思われる解雇処分がありましたね。
Commented by もぎぃ at 2006-09-25 02:43 x
>Barさん
「たまたま捕まった人間に厳罰を処す」 のも十分抑止効果があると思います。
一時しのぎ的な効果しかない、という点には同意。

しかし、一時しのぎでいいじゃないですか。その間に画期的対策が生まれれば。
たまたまの摘発だろうとなんだろうと、逮捕された人間を甘やかしたところで何になります?

まぁ貴方のコメントは

だからこそ「たまたま捕まった人間に厳罰を処す」 だ け じゃだめだ、ってのがこの文章の趣旨でしょ。

と書き換えれば、十分筋が通ったものになると思いますよ。
あと、日本語うんぬんのくだりはなんとも下劣ですね。
Commented by もぎぃ at 2006-09-25 02:47 x
大体、常習性のある飲酒運転者に対して 「たまたま逮捕」 も何も無いと思いますがね。
そんな人間の潜在的な危険性は計り知れないですよ。
Commented by もぎぃ at 2006-09-25 02:55 x
>> azarashi_salad さん
> だから、前回のエントリーで飲酒運転即免許失効を主張しているのですが、下の二人には読んでもらえていないようです。

それは失礼しました。その前回のという記事も拝見させていただきました。

でも私のように Excite News からのトラバを辿ってきた人間には、「前回分の記事を踏まえて」 という流れが盛り込まれていなければ、当然今回の記事分しか読みはしない、ということを言い訳させてくださいね。
Commented by azarashi_salad at 2006-09-25 04:33
♪うえださん、こんばんは。
そうですね、はじめから飲酒運転すれば即懲戒解雇という就業規則であれば問題ないのでしょうが、世間の流れで解雇するというのは、あまり適切でないと思っています。
さらに言えば、就業規則などは私的な決め事ですから、違法行為の罰則がゆるくて後を立たないのであれば本来法改正を求めるべきであって、違法行為の罰として私的な決め事が重視されるのは法治国家として健全な方向ではない気がします。
Commented by azarashi_salad at 2006-09-25 05:16
>もぎぃさん
本来やらなければならない対策を講じなければ、見せしめ的に解雇しても問題の解決にはならない、という点は理解していただけたのかなと思います。
今のマスコミが展開している「飲酒運転=懲戒解雇」という主張は、例えが悪いかも知れませんが「江戸の仇を長崎で打つ」ようなものです。
ですから、それを「まとめ」として本エントリーの最後の段落に「マスコミ各社もそろそろ問題の本質をきちんと捉えて、機能していない法体制の不備を改めたり、飲酒運転しなくても済むような交通サービスの充実を図るなど、実効ある再発防止対策を求める世論を構築していくべき」と書いたつもりですが、分かりにくかったですかね。
Commented by Link at 2006-09-27 17:39 x
いえ。分かりやすいと思います。
次の話題が見つかったら、飲酒運転報道は魔女狩的な一時的な報道になることは目に見えています。
それにマンマと乗らされて口角を泡を飛ばしている態度こそ唾棄すべきものと思います。

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