▼そもそも「内規」がおかしいのでは


●<米旅客機墜落>事故当時、管制官1人だけ 内部規定に違反(毎日新聞)8月30日

 【ワシントン吉田弘之】米ケンタッキー州レキシントンのコムエアー機墜落事故で、米連邦航空局(FAA)は29日、事故当時、同局の内部規定に違反し、管制塔に航空管制官が1人だけだったことを明らかにした。また、米国家運輸安全委員会(NTSB)の調査で、この管制官が事故機の離陸する様子を見ていなかったことも分かった。米CNNテレビなどが伝えた。
 内部規定は「2つの職務を遂行するために管制官2人が必要」というもので、昨年11月に作成された。飛行機の離発着に際してはレーダー監視と航空機の誘導などのため2人が必要で、人員が不足した場合はレーダー監視業務をFAAのインディアナポリス・センターに依頼することになっていた。
 今回の事故は、墜落機が間違って小型機用の短い滑走路を使用したのが原因とみられる。なぜ、管制官がこれを止められなかったのかも焦点となっていたが、この管制官は「管理上の仕事」をするため、滑走路から背を向けていたという。


○アメリカで起きた墜落事故では、当時の管制官の対応についても事故の背景として注目されているが、上の毎日新聞記事は何かピントがズレているような気がする。

 記事に書かれている事実関係を整理すると以下の通り。

①事故当時、管制塔には航空管制官が1人だけだった。
②この管制官は「管理上の仕事」をするため、滑走路から背を向けていた。
③このため、この管制官は事故機の離陸する様子を見ていなかった。
④飛行機の離発着に際してはレーダー監視と航空機の誘導などのため2人が必要。
⑤このため、米連邦航空局(FAA)の内部規定は「2つの職務を遂行するために管制官2人が必要」となっている。
⑥なお、人員が不足した場合はレーダー監視業務をFAAのインディアナポリス・センターに依頼することとなっている。


 毎日新聞の記事を読むと、内部規定に違反していた事実を単純に事故と結びつけて問題視しているように思えるが、今回の事故が離陸直後に起きた点を考慮していない。

 どういうことかというと、航空レーダーというものは空に向かって電波を発射しているので、ある程度の高度以上に達した航空機でなければ表示できない。
 したがって、離陸直後に墜落した今回の事故機に限って言えば、恐らく航空レーダーには表示されておらず、また、仮に表示されていたとしても今回の事故は空中衝突ではないから、レーダー監視業務担当の管制官がいなかったことと事故との直接の因果関係はない。
 さらに、今回のケースでも、もしレーダー監視業務をインディアナポリス・センターに依頼していれば、一人の管制官でも内規違反ではなかったことになる。

 交通量の多い大空港では一人の管制官だけで業務をすることなど無いのだろうが、今回のようなローカル空港では、恐らく要員事情からレーダー監視業務をインディアナポリス・センターに依頼するなどして一人で管制することが常態化していたのではないだろうか。

 つまり、今回の事故は「内規違反」が問題の本質ではなくて「要員の合理化」が背景にあり、航空機を滑走路に誘導するという一つの業務ならば一人の管制官でも構わないとされている現行の内規そのものが、安全に十分配慮されていないことが露呈した事故と見るべきではないか。
 その意味では、以下に紹介する産経新聞記事の方が、まだ問題の本質に近い。

●管制官1人で業務 離陸時、滑走路見ず 米機墜落事故(産経新聞)8月31日

 【ワシントン=有元隆志】米ケンタッキー州レキシントンで、地域航空会社コムエアー5191便が墜落した事故で、米連邦航空局(FAA)の内部規定に反して、航空管制官が1人しか勤務していなかったうえ、この管制官が事故機の離陸を見ていなかったことが29日、明らかになった。AP通信などが伝えた。
 FAAが昨年11月にまとめた内部規定では、航空機の離着陸とレーダー監視にはそれぞれ別の管制官があたるとして、複数の管制官を配置するよう求めていた。ところが、事故当時、管制業務にあたっていたのは1人だけで、この管制官は同機の離陸の際、「管理上の仕事」のため滑走路に背を向けていたという。
 事故は、同機が誤って小型機用の短い滑走路から離陸しようとしたため、十分な速度と高度が出ず失速したのが原因とみられている。米国家運輸安全委員会(NTSB)などは管制業務のあり方についても調査を続ける。
 一方、事故機の搭乗者名簿に名前があった住友建機社員、光野哲也さん(34)と妻、菜穂子さん(31)の家族は29日、レキシントンに到着した。


○2002年7月、ドイツ上空で航空機同士が空中衝突した事故があったが、この事故の場合も、同空域の航空管制を担当していた管制官が休憩中に、残りの管制官が一人で業務をこなしていた時に起きている。

 したがって、これらの事故を教訓として真剣に再発防止を考えるのであれば、そもそも管制官が一人で業務する(しなければならない)要員体制を見直し、常に2名以上の管制官によるダブルウォッチを義務づけるような規定に改める必要があると思うのだが、米国家運輸安全委員会(NTSB)がどのような調査報告を出すか注目したい。

○ところで、今回の記事を書いているときに見つけた「失敗知識データベース」は、科学技術分野の事故や失敗の事例を分析し、得られる教訓とともにデータベース化したもので、畑村洋太郎・工学院大学教授が統括を努める科学技術振興機構(JST)が無料で提供している。
 こちらはリンクフリーということなので、ぜひとも広く世間に広めていただきたい。
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by azarashi_salad | 2006-09-02 06:45 | 社会 | Comments(2) <:/p>

Commented at 2006-09-09 17:00 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by azarashi_salad at 2006-09-15 23:53
♪鍵さん、こんばんは。
遅くなりましたが本日メールを送信しました。

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