▼盗難被害者ではなくて加害者の情報はどうなっているのか

●このブログでは、以前から犯罪被害者に必要以上に焦点を当てた報道に対して、問題の本質を見誤る恐れがある、誰が本当の犯罪者かミスリードする恐れがある、と問題提起してきました。
 にもかかわらず、以下に紹介する記事を見ても分かるとおり、マスコミの報道姿勢は相も変わらず被害者側の不祥事にばかり注目し、肝心の加害者についての情報をほとんど伝えていないような気がしてなりません。

●CM撮影で制服紛失=客室乗務員用など10着分-全日空(時事通信- 6月7日)

●客室乗務員らの制服紛失 全日空、CM撮影に貸与(共同通信- 6月7日)

●<全日空制服>CM撮影で12人分紛失 電通など謝罪(毎日新聞- 6月7日)

●テレビCM撮影用のANA制服、電通が12人分紛失(読売新聞- 6月7日)

●不明のANA制服1着、CM出演女性が「返す」(読売新聞- 6月8日)

●<全日空制服紛失>1セット返却 紛失分は9セットに(毎日新聞- 6月8日)

●全日空の制服1着返却される=CM撮影で紛失、未回収9着に(時事通信- 6月8日)

●新たに制服3着回収=全日空(時事通信- 6月9日)

●<全日空>紛失制服、匿名の宅配便でさらに4セット戻る(毎日新聞- 6月9日)

○これらの記事から明らかにされた事実は以下のとおりです。

①テレビコマーシャル撮影の際、全日空が電通子会社の「電通テック」に貸与した客室乗務員の制服10着が無くなった。
②制服だけでは空港の制限区域内に立ち入れない。
③無くなった制服はモデル事務所所属の女性(22)が無断で持ち帰っていた。
④匿名の宅配便でさらに3セットの制服が返却された。
⑤電通は「全日空に深くおわびするとともに、こうしたことが二度と発生しないよう再発防止に取り組む」としている。
⑥全日空は営業推進本部部課長2人を厳重注意処分した。


○一連の報道では、見出しに「全日空」の文字が強調されていて「電通」の文字が目立ちませんが、これはどうしてでしょうか?(マスコミ各社は「電通」に何か弱みでもあるのですか)

 これらの報道によると、盗難の被害者側(まだ被害届は出していない模様)である全日空は、営業推進本部部課長2人を厳重注意処分にしたそうです。 処分の理由は、恐らく制服を貸した際の管理責任を問われたのではないかと思いますが、この二人には思わず同情してしまいます。

 これに対して、制服を借りた側の「電通」(および子会社の「電通テック」)は、どのような処分を行ったのでしょうか?(責任者は誰ですか)
 また「電通」が取り組む「再発防止策」とは一体どのようなものでしょうか?(具体的な内容がさっぱり分からないのですが)
 さらに、制服を無断で持ち帰った(個人的には「窃盗犯」だと思っていますが)モデルの女性(22)やモデル事務所に対するペナルティーはどうなっているのでしょうか?(どうして取材しないのですか)

●なお、全日空だけではなくて日本航空でも似たような事件がありました。

●客がJAL機の救命胴衣持ち去る、気づかず33回飛行(読売新聞- 6月9日)

●修学旅行生、救命胴衣持ち去る=気付かぬまま1週間-日航機(時事通信- 6月9日)

●高校生が救命胴衣持ち出す 日航、気付かず1週間運航(共同通信- 6月8日)

○これらの記事から明らかにされた事実は以下のとおりです。

①JAL機に搭載されていた緊急時用の救命胴衣5着が無くなった。
②客室乗務員が社内規定で定められている点検を怠っていたため、同機はその後1週間にわたって救命胴衣がないまま運航を続けていた。
③日本航空は、社内規定に違反していたとして国土交通省に報告した。
④機内には予備の救命胴衣が別に15着あったため、日航は「安全上の問題はなかった」としている。
⑤救命胴衣は、北海道方面に修学旅行に行った関西地方の高校生が無断で持ち帰り、宿泊した北海道内のホテルに置き去りにしていた。


○日本航空は、恐らく社内規定違反として客室乗務員等の関係者を処分するのではないかと思います。
 盗難の被害者(日本航空が被害届を出したかどうかは不明)ということをふまえれば、こちらの関係者にも同情の余地がありますが、乗客の生命に直結する安全確認を怠ったということであれば、処分もやむを得ないような気がします。

 ところで、そんなに重要な救命胴衣を無断で持ち去った「関西地方の高校」とは一体どこの高校なのでしょうか?(なぜ学校名を公表しないのですか)
 また、引率の教師など学校側の処分はどうなっているのでしょうか?
 さらに、無断で救命胴衣を持ち去った(個人的には「万引き」と同じで「窃盗犯」だと思っていますが)高校生や保護者に対するペナルティーはどうなっているのでしょうか?

○日本航空の社内規定違反は今回の盗難事件とは切り離して整理すべきと思いますが、上記2件の盗難事件についてはある程度「犯人」が判明しているにもかかわらず、どうしてマスコミは加害者側の情報を伝えようとはしないのでしょうか。

 当たり前のことですが、人のものを勝手に持ち帰ってはいけません。借りたものはきちんと返しましょう。

 何度も繰り返しますが、マスコミの報道スタンスはどうも「窃盗」という「犯罪」よりも「社内規定違反」や「管理不行届」などの「不祥事」の方を重視しているように思えてなりません。
 そして私は、マスコミのこのような報道姿勢が犯罪者の罪の意識を軽くし、犯罪を助長しているような気がしてならないのです。

【6/13:追記】
たまちゃんのてーげー日記:「テレビCM撮影用のANAの制服、電通が紛失!」の続報!によると、全日空のHPに「お詫び」が載っているそうです。
お詫びしなければいけないのは、全日空ではなくて盗んだモデル本人、モデル事務所、電通テックの方ではないでしょうか。

当記事と同様のご意見をお持ちのブログリンク
●たまちゃんのてーげー日記
●ニュースの小箱
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by azarashi_salad | 2005-06-10 23:57 | 社会 | Comments(11) <:/p>

Commented by tsuruaki_yukawa at 2005-06-11 14:43
こんにちは!湯川です。返事が遅れました。申し訳ありません。さてわたしはこういう問題はあまり得意ではないのですが、ご要望なのでがんばってみます。まずマスコミが「犯罪」よりも「不祥事」を重視するかという点。わたし自身の感覚ではそのようなことは思いません。そうしてしまう理由もよく分からないし・・・。加害者、被害者、どちらに焦点を当てるかですが、それはその人物の知名度やその犯罪行為の特異性によるのだと思います。住所不定無職の吉田たつろうさんが経済評論家の木村剛さんの自転車を盗んだら「吉田さんが自転車を盗む」という記事にはならず、「木村氏が窃盗に遭う」という記事になると思います。こうした報道のあり方が、罪の意識を軽くしているとは思えませんが・・・。
こんなもんでいいでしょうか。あまりたいした意見でなくてごめんなさい。
Commented by ginkokoba at 2005-06-11 20:58 x
すみません、私はなんでもない「ただの人」なんですが、この一連のマスコミ報道は、これはこれだなあと思ってみていました。

私がそう思ったのはなぜかというと、「犯罪」はたくさん世の中に起きているんだろうな、と思いました。それで、犯罪があった、だけでは記事にならないような気がしました。つまり、それが会社の不祥事とか、そういうプラスアルファの部分で、ニュースバリューがぐーんと大きくなる気がしました。

答えになっていないかもしれませんが、そういう風に、ぼうっとうけとってしまったので、あまり疑問なく、記事を読んでいました。

でも、一般的に、必要な情報がない報道、わざと隠しているとしか思えない報道〔特に外交関係の記事他)などなど、たくさんあるようにも思います。
Commented by azarashi_salad at 2005-06-11 22:37
湯川さん、わざわざこちらにコメントありがとうございます。(無理言ってすみません)
時事通信の記事は、いずれも事実関係のみを淡々と伝えていると思っていますが、例えば日航についての読売新聞と共同通信の記事は、明らかに「高校生による救命胴衣盗難」よりも「客室乗務員の点検ミス」に焦点を当てていると思いますがいかがでしょうか。
もちろん、日航の不祥事は不祥事として問題だとは思いますが、一方の盗難事件についても、こうした犯罪(不祥事)を起こすと翌年から修学旅行を中止する学校もあると聞きますので、再発防止のためにも、この高校がどのような対応をしたのかぐらいは伝えてもいいのではないでしょうか。
Commented by azarashi_salad at 2005-06-11 22:53
ginkokobaさん、はじめまして。
いつも湯川さんのブログでお見かけしていますので、私は初めてという感じはしていませんが、笑。
最近は、線路に自転車を放置する事件などマスコミ報道が間接的に犯罪に関与しているような事例も見かけますので、報道する際には、特に再発防止を意識するべきだと私は思います。
その意味では、2つの事件共に「盗難」という犯罪を軽く扱っているような印象を私は受けました。
特に全日空の場合は、処分された部課長はボーナスも査定されると思うのですが、そもそも無断で制服を持ち帰るような手癖の悪い「モデル」達は、それ以上のペナルティーを課せられて当然ではないでしょうか。
また、そうしたことを広く伝えることが、犯罪の再発防止に繋がるのではないでしょうか。
Commented by dawn at 2005-06-12 11:30 x
こんにちは
最近の日本人は他者への慮りに欠けているような気がします。これは、本質的に外部に対する想像力の欠如のせいでしょう。要するに客体に対して誰かが評価しなくては、どう考えて良いのか判らない。結局のところ、自分によければ良いやとなってしまうと云うところですかね。これを煽ってきたのが一部マスコミ人であり、特に自らもそのような環境で育ってしまった最近のジャーナリストなんでしょうね。だから今回のような記事の纏め方にも疑問は感じないのでしょう。dより
Commented by ぱっと at 2005-06-12 15:30 x
こんにちは。別館には初めてコメントさせて頂きます。本館?と別館はどのように使い勝手が違うものなのですか。コメントを書く私の側としてはメールアドレスを書く欄がなくなったという違いくらいしか分かりません。
今回の記事もよく調べられていることに敬服いたします。「個人的には」と遠慮されていますが、救命胴衣は間違いなく窃盗です。それにしても「不祥事」を報道するのが本当に好きですね(ただしマスコミの不祥事を除いて(笑))。
Commented by azarashi_salad at 2005-06-12 23:15
dawnさん、こんばんは。
みんなが「自分さえ良ければいい」と考え出すと社会が成立しなくなりますね。その一方、マスコミは治安の悪化なども報道しているわけですが、自ら積極的に良くしようと取り組んでいるとも思えないところが私には不満です。特に、コメンテイターが感情にまかせて煽るだけのテレビはひどいですね。
Commented by azarashi_salad at 2005-06-12 23:31
ぱっとさん、お久しぶりですね、ようこそ別館へ。
こちらは、左下の「非公開コメント」にチェックすると、私しか読めないコメントが書き込めますので、もし全体に公開したくないコメントがあればそれを使って下さい。
時事通信の湯川さんは、「不祥事」を「犯罪」より重視しているとは思わないと仰っていますが、報道全体がワイドショー化するにつれて、明らかにゴシップ報道の方が増えているような気がします。
まあ視聴者の嗜好を反映しているだけ、と言われればそれまでなのですが、笑。
Commented by 上昇気流なごや at 2005-06-13 11:41 x
 上昇気流なごや・毎日新聞磯野です。
 ざっくりとした話でご勘弁ください。それから、あざらしサラダさんの考えとは違うことを書くことになると思いますが、それはそれでお赦しください。
 全日空、電通、JALを批判するのは、管理責任というか、制服や備品をしっかり管理するのは、あなた方の責任ではないかという思いがあるからでしょう。性悪説というのかなぁ、さぁどうぞ盗んでください、というような状態に置いてあれば、出来心もあるのではないか。
 制服を持って帰ったり、救命器具を持っていったり、というのは、確かに、立派な犯罪だし、彼らを断罪するのが筋だとは思います。でも、何というか微罪の範疇に入るのではないかと。
 それから、湯川さんもそういう文脈で書いておられたように思いますが、知名度の高いところをたたくという、ルールというか、マスコミの習性がありますよね。ものを盗んだ修学旅行の生徒が通う学校の取材、生徒の取材、制服を持って帰ってしまったモデルの取材、所属事務所の取材も、できればやったほうがいいとは思いますが、窃盗容疑で逮捕されれば話は別ですが、そうでないと、記事に実名は出せません。(続く)
 
Commented by 上昇気流なごや at 2005-06-13 11:42 x
(続き)
 制服については、悪用されるのではないかという心配がひとつ。女性の場合は、それを着て、週刊誌の裸のグラビアに登場しないかとか、そういう方面で使われるのではないか、と余計な心配もしたりします。
 そこで最初に戻るのですが、エキストラに貸し出してCMを撮影するということは、これまでに何度もやっているでしょうし、そういう場合の制服管理のノウハウは、全日空も電通もしっかり持っているはずで、だから、あほやなぁと。そういう記事になったのではないかと思うのですが。
Commented by azarashi_salad at 2005-06-14 18:03
磯野さん、こんばんは。わざわざこちらにコメントありがとうございます。(無理言ってすみません)
制服盗難事件では、借りた側の電通の管理責任を批判するのはまだ理解できるのですが、貸した側の全日空が「お詫び」するのは何か違うような気がします。例えが適切ではないかも知れませんが、いじめにあった子供が「お前も悪いんだよ」と責められて「ゴメンなさい」をしているような感じを受けます。
救命胴衣盗難事件では、まさに命に関わる重要なものを勝手に持ち去った高校生をきちんと批判しておくべきではないでしょうか。
窃盗という犯罪行為を微罪として目をつぶり、犯罪行為ではない企業不祥事を批判するマスコミ側の「ものさし」に本当に問題がないか、ぜひ自問して頂ければと思います。

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