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◆8/15付の産経新聞:杉浦美香・山形支局長の記事に思う

◆8/15付の産経新聞:杉浦美香・山形支局長の記事は、汚染食材を食べない者を批判するのと同じ理論で瓦礫処理に協力しない者をまるで非国民扱い。「がたがた文句言わずにお前らも被曝せんか」と強要されているようで余りに酷いので、気になる点についていくつかコメントを付加してみた。

山形ががれき受け入れの「放射能」独自基準に踏み切れた理由(わけ)は- 産経新聞 8月15日(月)8時52分配信

■基準の2分の1以下
『(山形)県が受け入れるために打ち出した放射性セシウム濃度は1キロあたり4000ベクレル(Bq)以下。国が福島県内で処理するために示している8000Bqの2分の1にあたる。焼却については濃縮率を20倍とみて200Bq以下とした。2分の1にした理由について、担当者は「他県のがれきを受け入れるにあたり県民の安全安心に配慮した」と説明する』とあるが、

そもそも杉浦氏はこの記事を書くに当たって、濃縮率「20倍」が科学的に正しいと証明されているか確認したのだろうか。また「1/2」だと県民の安全が担保できる科学的根拠についても確認したのだろうか

【参考】「第四回災害廃棄物安全評価検討会」資料について

■動きが鈍かった国
『阪神大震災時も他県でのがれき処理が行われた。国は、東日本大震災でがれきの広域処理の協力を各自治体に呼びかけたところ、42都道府県の572市町村・一部事務組合が受け入れを表明した』とあるが、

この記事のテーマは「放射能汚染が原因で瓦礫処理が進まない」と思われる。であれば、そもそも放射能汚染がなかった阪神大震災を持ち出して比較すること自体が、意図的なミスリードに他ならないのではないか。

『ゴミ処理は一筋縄ではすまない。自分たちのゴミであっても、処理場の設置であっても、運搬車の通行であっても周辺住民の理解を得るのは大変なことだ。そうした中で岩手、宮城の被災地からのがれきといっても、他県のものの受け入れによる風評被害を恐れる市民から反対の声が起きる可能性は低くはない。このため、県は、放射能濃度が高いとして県内で処理することを決めた福島の基準の「2分の1」という、「安心」の幅を設定することにした』とあるが、

今回処理するのはただの廃棄物ではなく放射能汚染された廃棄物だ。そして放射能汚染は実害であるため、これまでは適切な方法で処理・処分されてきたものだ。杉浦氏がここでいう「風評被害」とは一体なにを指しているのだろうか。その後の文章で「2分の1」について説明しているところを見ると、どうやら低レベルの放射能汚染のことを「風評被害」と定義づけているのではないかと思われるが、低レベルの放射能汚染であっても科学的に安全が確認されたもの以外は「風評被害」ではなくて「実害」である。

【参考】原子力発電所の廃棄物処理方法(電気事業連合会)

■数字が持つ意味
『基準値の数字を理解するのは難しい。基準値を1でもオーバーすれば健康に害があることを意味するのか。1低ければ安全とみなすのか』とあるが、

たとえば道交法では、呼気中アルコール濃度0.15 mg以上の場合は酒気帯び運転で行政処分するよう規定している。したがって、検査結果が0.16mgの場合は確実に酒気帯び運転として違反点数が課せられるが、0.14mgの場合は違反点数は課せられないものの絶対「安全」とは言い難い。放射能汚染もこれと同じで、基準値を1でもオーバーすると違法行為となり、基準値を1下回ると違法行為ではないが、やはり絶対「安全」とは言い難い

『環境省が11日付で出した「災害廃棄物の広域処理の推進についてのガイドライン」は、岩手県陸前高田市と宮古市の仮置き場にある災害廃棄物の放射性物質濃度を実際に測定、焼却によって灰に放射性セシウムが濃縮する倍率を33・3倍として計算していた。山形県は濃縮率を20倍としており、焼却の際の基準は200Bqとしている。しかし、国の33・3倍で計算すると、6660Bqになり、国の8000Bqより低いが、県の4000Bqをオーバーすることになってしまう。環境省が調査した陸前高田市のがれきの実際の値を使って計算しても4895Bqと4000Bqを超えた。ここで、重要なのは8000Bqという国が福島県に示した基準が持つ意味だろう。がれき処理でもっとも被爆する可能性が高い作業員の労働時間から年間の受容被爆量を計算して安全とした値であるということだ』とあるが、

放射性廃棄物の処理では、我が国には法律で定められている「クリアランスレベル」という基準が存在する。この基準とて絶対「安全」とは言い難いものの、少なくとも現行法上は(放射性物質として扱わない=)「安全」とされている唯一の基準であり、作業員の受容被曝量から計算した値をもって「安全」とする法的根拠は存在しない。

【参考】原子炉等規制法におけるクリアランス制度について

『33倍の濃縮率にしても、灰の中でも9割以上を占める燃えがら(主灰)ではなく、発生量が3%程度で、集じん機などで集めた排ガスに含まれるばいじん(飛灰)にすべてセシウムが移ると設定しており、現実的にはほとんどありえない仮定の数字だったという。敷田課長補佐は「安全評価委員会の専門家から厳しすぎるというご指摘もあったが、より安全なものをとった。だから、知見がもっと集積されれば実態に合わせて変えたい」と話していた』『数字は一人歩きしやすい。数字だけで一喜一憂すると、数字が持つ本来の意味が失われてしまう恐れがある』とあるが、

この担当者のコメント自体が、科学的に「安全」との確証が得られた数字ではないことを証明している。ようするに誰も正確な事実は分かっていない、というのが正しいのではないか。このため、多くの者が科学的あるいは法的根拠のない数字の一人歩きを心配してきたのだが、「100mSv」などの数字を積極的に一人歩きさせてきたのはマスコミの方ではないか。

■満杯のがれき
『山形は放射性物質の独自基準を示したが実は被災地の一部のがれきについて7月から民間事業者が受け入れている。村山市は7月7日から、気仙沼市の木くずを、米沢市は多賀城市の不燃物を同月19日から搬送している。他県のがれき受け入れにあたっては自治体同士が事前協議し、受け入れ自治体が了承する必要がある。村山市では受け入れにあたって、周辺住民への説明会を実施。搬送前、搬送後の測定、その後の継続モニタリングも実施している。実測値について、これまでは問い合わせに答えるといった形だったが、今後公表するとしている。米沢市も村山市も県が設定した安全基準をクリアしているという』とあるが、

これは放射能汚染された廃棄物について規制する法律が欠落しているという現行法制上の欠陥である。本来は、現行法制上の隙間をかいくぐって「なし崩し的」に放射能汚染された廃棄物の処理が進められていることを問題提起すべきであり、こうした既成事実を持ってあたかも「安全」であるかのように報道するのは極めて無責任かつ問題である。

【参考】廃棄物処理法は放射能にさらされた廃棄物を想定しておらず、除外されているからだ

■正しくこわがる
『陸前高田市の被災松を京都の「五山の送り火」に使う計画は、受け入れをめぐって2転、3転した結果、結局最後のところは「セシウムが検出された」として取りやめた』『こうした反応が起きるのは京都市に限ったことではないがあまりにも悲しい。「被災地から遠くに離れた関西だからでしょうか」と山形で、関西出身の私は問われた。樹木の基準がないから、という理屈があったにしろなにか「騒動はごめん」という気持ちが透けてみえるような気がする。薪は500本、がれき処理のように大量に燃やすのではない。検査のために採取したのも表皮だけだ。燃やしたからといって健康被害が起きるとは思えない』とあるが、

放射線の専門家でも疫学の専門家でもない新聞記者が、一体どのような科学的な根拠を持って「健康被害が起きるとは思えない」と断言しているのか理解に苦しむ。自らを公的と謳う報道機関が、このような無責任な発言を行うことは厳に慎むべきである。

『日本人の潔癖さは食品などの品質向上の原動力になってきたとはいえ、「正しくこわがる」必要があると思う。安全であることが第一だが、ゼロリスクはどこにもないのだ』とあるが、

そもそも安全な「被曝」などはこの世界に存在しておらず、現状は、経済活動などによるメリットの享受や、病気などのデメリットを避けるためにやむを得ず最低限の「被曝」を許容しているわけである。したがって、避けられる「被曝」は避けた方がよく、「被曝」を避ける者をまるで「神経質な異端者」のように扱うべきではない。

『日本の製品は被爆していると輸出拒否にあうなど、日本全体が風評被害で苦しんだ。科学的に判断してほしいと日本は各国に要請した。しかし、国内でこうした反応が起きてしまうということは結局、自分たちの首をしめることになる』『こうして基準を設置して受け入れの環境も整えた。安全の確保が大前提だが、理屈のたたない「安心」のために、広域処理支援の計画を頓挫させることがあってはならない。情報公開、数字の意味の丁寧な説明に努めて計画どおりに、海上輸送などでがれきの受け入れが進むことをせつに望む』とあるが、

静岡のお茶に代表されるように、日本の製品が輸出拒否にあっているのは、実際に放射能汚染が確認されたからであり、これは「風評被害」などではなく「実害」である。これを解消し円滑な輸出を再開するためには、一刻も早い放射能汚染の除去と厳しい放射線規制が必要であるが、汚染廃棄物の広域処理は、これまで放射能汚染が確認されていなかった地域まで汚染を拡大する恐れがあり、まさに「愚策」と言わざるを得ない。

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クリックで救える命がある。

by azarashi_salad | 2011-08-16 09:15 | 健康 <:/p>

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